【書評】松原タニシ「死る旅」

 この本を知ったのは偶然でした。大好きな漫画「ゴールデンカムイ」最新巻を買いに、那覇ジュンク堂書店に行ったところ、内地での発売日と時差があったため、断念して帰ることにしました。「今日は何も収穫はなかったけど、まあいいか。ここまで散歩できたし。なんか面白い本あるかな〜?」とアンテナ張ってたら、入り口の新刊コーナーにあったこの本が目に入りました。

 松原タニシ氏は、通称「事故物件住みます芸人」。文字通り事故物件=自殺、殺人、不審死があった物件を選んで住み、経験をさまざまな媒体で発信するスタイルの芸人さんです。都市伝説系・恐怖系配信などがお好きな方は、ご存知かと思います。松原氏の最新刊が、本書「死る旅」です。

 表紙が見ての通りカラフルな装丁なので、一見「死」と結びつきません。しかしメキシコの「死者の日」はカラフルですし、まずこのギャップを感じた自分の中にある、死や恐怖といったものへの固定しかけた観念に気付かされたのが最初の収穫。

 事故物件や心霊スポット、怪しい場所に行きまくった松原氏は、当初心霊を心霊より怖い現実を生き抜くための「希望」として捉えていたそうです。

 しかし、あることに気づいてしまいました。それは、「嫌なことから目を背けていたら、目を背けている自分から、目を背けられなくなってしまう(原文ママ)」ということです。

知らないことは恐い。知ると怖さは軽減される。怖いから知りたい。

 けど、本当にそれは自分が知りたかったことなのだろうか?

 ただ違う恐怖から逃げるために、目を背けるために心霊に目を向けていたのではないか。

「死る旅」松原タニシ著 株式会社二見書房刊 「はじめに」より引用

 

 この問いかけから、松原氏の旅が始まります。フツーに考えてかなり怖いスポットに行きまくる松原氏。しかしそれは彼にとっては、とっくのとうに日常。恐怖などいちいち感じてはいません。超有名恐怖スポットをめぐる時、彼の頭の中によぎるのは生きていくことへの問いかけです。

 ある一つの視点を極めたもの=あきらめたもの(「あきらめる」という言葉の原義「明らかに極める」という意味で)の鮮烈なノンフィクションがここにあります。
 松原氏は様々なスポットを漂泊します。タイの中国人墓地、国内の恐怖スポット、高知県物部の「いざなぎ流」太夫さんにお会いしたり、絶対に見てはいけない祭祀の地に行ったり(そして実際絶対見ない。その時間帯は停電になる)、遺体管理をされている方のお話を伺ったり、即身仏を見たり、現代のシャーマンを訪れたり…

 そしてついに最後おこなったのは「触れば即死、指さしても吐血のたたり石で百物語」(見出しママ、P324より)でした。パンクすぎて最高。

 この百物語が、果たして彼にとって何だったのか。それはぜひ、「死る旅」を手に入れてお読みください。現代に真摯に生きる一人の青年の目から見た「希望」とは何か、という問いかけがここにあります。

 本書は同時に、21世紀初頭の日本のシャーマニズムを記録する貴重な書でもあると思います。後輩芸人くんが全然オカルトに興味ないのに、いろいろ訪れるうちにチャネリングが始まって超貴重な情報を松原さんがゲットするなどのリアルな描写も秀逸。

 「あきらかに極めるとは何か」という一つの記録、ぜひご覧ください。


【書誌情報】

松原タニシ 「死る旅」

株式会社二見書房刊 1450円

※装丁がとても美しいので、紙の本で買うことをお勧めします。

★POPより一言★

 偶然の出会いでしたが、いい本でした。「恐怖体験なんて、波動が!!きゃーこわい」と思う人ほど、読んで欲しいです。波動があってしまう、とは何かということについての興味深い話も(ネタバレするので書きませんが)しっかり書いてあるからです。さすが実体験。あたらしいシャーマン必読書!

 さて、本日改めてゴールデンカムイ最新刊、買おうと思います。なんて言ってて、また不思議な本に出逢っちゃったりして…笑

あたらしい。

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