連続シャーマン小説「日暮時空探偵事務所」第4話『2年後の3月25日』

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 「木火土金水空(もっかどごんすいくう)の制限を外して ジョウモン オン」

 ざわざわざわ

 ざわざわざわ

 風がない夜なのに、木と注連縄が揺れる。

 こんな風景を何回も見てきました。

 今ではすっかり慣れっこですが、これが何を意味するのか私は全くわかりません。そして、自分自身が実際にはどういう原理でお給料を頂いているのか…すなわち、この探偵事務所が一体社会の中でどう貢献しているのか。それすらも他人に上手く説明できません。

「終わったぞ光子。篁、待たせたな。観音裏の例の店に行くか。」

「ヨッ!久しぶりのフレンチ楽しみだねえ。光子ちゃん何食べるの?」

 すっかり呑みモードの日暮先生と篁さん。2人はいつもこうです。ことが終わると、さっさと行ってしまいます。こちらがヒールを履いていることなどお構いなしなので、こういう砂利道ではイラッと来ます。

 追いつきがてら、尋ねてみました。

 「先生、そういえば今日呪文が違いましたね。いつもだと、ただジョウモンオンだったり、陰陽五行の制限を外して…って言ってましたよね。」

 「お、さすがみっちゃん、そこに気づいたか。」

 「篁、気づかないようでは当探偵事務所では用無しだ。」

 「先生、用無しとは失礼な。で、なんでです?」

 「お前はいつもぶっきらぼうでいけない。探偵はインテリジェンス、フランス語ではアンテリジャンでなければならないと、常日頃言っているだろう。」

 「私は探偵じゃないんで結構です。で、なんでです?」

 足を早めてようやく追いついた私は、少々キレ気味な勢いで尋ねました。

 「2年後の3月25日に向けて、呪文をアップデートしただけ。」

 え?

 その声は?

 まさかここにいるはずがありません。SNSでの投稿が確かであれば、先ほどまで関西にいたはずの…

「おっつ〜。イェイイェイイェイ!」

「よぉPOP。遅かったな。」

「それはこっちのセリフなんだけど〜。冬至の石舞台、平城京お疲れ様。」

「木田ちゃん久しぶり。今日はどこから?」

「隅田川神社。鳥岩楠船神が動くでしょ。だから事前に。まあそれはいいとして、早く行こうよ。日暮ちゃんと予約してんの?予約してないなら西浅で焼き鳥もいいなーと。」

「おいおいまかせとけPOP。とりあえず店に向かおう。話はそれからだ。移動は?」

「朝に新幹線で行くから全然余裕。」

「木田ちゃん、一緒に行くわ。」

「篁さんはホント乗り鉄だよね〜。すぐ真名井に?」

「いいや、大将軍に寄っていく。」

「じゃ、円町まで一緒か。」

  一見全く普通の会話ですが、わたしは微妙にモヤモヤします。

 呪文をアップデートしただけ、と言われてもなんのことやらさっぱりですし、篁さんは人の目には見えない?存在なので、一緒に電車移動とかどうやってんの、という謎が深まるし、そもそもなんで私見えてるの、ということもマジ意味不明です。シャーマンあるある、別に慣れたけど、マジシュールすぎ。無理。転職しようかな。

 もうこうなったらタルティーヌと白ワインで、早くほろ酔いになって、すべてどうでもいい心境になりたい。

 でも、それでも。

 ひっかかったことは言わずにいられない性分です。

 YESとNOは、ハッキリしたいのです。

「木田先生っ!アップデートってなんのためですか?2年も先のために、何をやってるんですか?」

「どーしたの?みっちゃん?鼻毛でてるよ?イェイイェイイェイ」

「い、イェイイェイじゃないでしょう!?」

「イェイイェイじゃないよ。イェイイェイイェイって三回言ってね。これ呪文だから。」

「なんでもかんでも呪文とか言わないでください!スピるのも大概にして欲しいです。吉幾三だって、『おれはぜったい!プレスリー』の間奏でイェイイェイイェイって言ってますよ!幾三もシャーマンだっていうんですか?」

「私はそう思ってるよ。プレイリストほぼIGZOだし」

「横文字でカッコよくいえばいいという風潮は軽佻浮薄です!で!なんなんですか!プレイリストには波動あげるミュージックとかマントラとか入れといて下さい!ありがたい奴!」

「は〜い。っていうか、みっちゃんの方がよっぽどスピってるんじゃないの?まぁいいか。2年後の3月25日にとある祈りの結界が外れて、水と星の記憶をみんなが思い出しちゃうから。これでいい?」

「ぜんぜんわかりません。水と星ってなんなんですか?」

「もうお腹すいたから後でにしようよ、みっちゃん〜。久々の浅草なんだからさぁ。」

 とっくのとうに先に行っていた日暮先生が、くるりと振り返り、大声で言いました。

「そういうところがいい所だ、光子。お前さんは問いかけをやめないからな!」

 ふと見ると橋の向こうにスカイツリー。

「光子、スカイツリーの足元にも星がある。スカイツリーの横には水がある。これは全部、エネルギーのラインなんだ。それを人工的に利用しているとしたら?」

「質問返しですか先生!」

問いかけに問いかけで答えた、と言って欲しい。ある一部の限られたものだけが知っていて、占有してきたエネルギーが変わる。来年の1月、茨城と千葉から。岡山が動き、石舞台が動いた。八尾は大雨だった。これは全て関連している。茨城、千葉の案件の次は岡山。六甲。そして次に動くのが2年後の3月25日、それだけのことだ。五芒星の形から、六芒星になる。レイラインだ。」

「正確に言えば麻の葉からね。立体化が進んで洪水の記憶を思い出す。すべての文化に共通する洪水の記憶。イェイイェイイェイ」

「そういうことだとしたら?光子」

「またお得意の質問返しにシュール返し!スピも大概にして下さい!」

「まあまあみっちゃん、そう怒りなさんな。スカイツリー綺麗だねえ。俺が若い頃都にあったら、マジデートするわ。いっそ、デート気分で手でもつなぐ?」

 …キュン★

 そうだ…私、篁さんが選んでくれたルージュを塗ってるんだ。

 篁さんは、こういう時にセクシーエナジーを発動するのが得意です。この世の人なら勿論デートしたいところですが…

 平安時代初期のメンズ、小倉百人一首にも選ばれている歌人と思うと、世代的なギャップにちょっと気がひけるのでした。

(続く)

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