「あ、ドモドモ、お疲れッス。」
飄々としたその人は、まるで此処が自宅であるかのように自然に入ってきて、自然にソファに腰を下ろしました。
「タカムラ、久しぶりだな」
「そうか?ついこないだと思ったけど。あ、光子ちゃんコレ。木田ちゃんのぶんも入ってるから。」
タカムラさんは無造作に茶封筒を放り投げて来ました。
キタ。
現生。
私はそそくさと衝立の裏でカウント作業に入ります。シメシメ。
「木田ちゃんは?」
「最近は芸人の仕事に明け暮れている。事務所にも月一回顔を出すか出さないかだな。」
「ふーん。例の旅芸人仕事ね。」
「行ってる場所がアレだけどな。本人は上手く隠してるつもりだろうが、磐座のある場所ばかりだ。」
「まぁ、そこまで気にすることもないっしょ。先日滋賀で会ったときは、黒龍の案件だったな。」
「息長氏から今に至る、琵琶湖ポータルな。あれは結局淡路島とニコイチだろ。」
「その通り。例の分断された六芒星結界の。木田ちゃんは奈良に集中的に行っているが。あれはブラフだな。ミスリーディングを誘導している。」
「タカムラ、俺より良く知ってるじゃないか」
「まあねー。毎日連絡入るし」
「なぁんだ。じゃあ俺よりは事情通だな。あいつは今日辺り京都だろ?」
「いや、浅草に先回りしてる。」
「え?」
「吉備温良が岡山で動いただろう。」
「先日の総社市の大雨…」
「そのからみで天海の結界を調べに行っている。京都には明日朝戻るさ。なにくわぬ顔で芸人仕事だ。おーい、光子ちゃん、いつまでも数えてないでこっちおいでー!芋羊羹おくれよ。」
言われるより早く、私は知覧茶と舟和の芋羊羹を卓上に置いていました。
「さっすがー!いただっきー!」
タカムラさん---小野篁は、甘いものに目が無いのでした。
誰が想像するでしょう。
UNIQLOのダウンと細身のジーンズ、豹柄のスニーカーはCONVERSE。
こんなその辺のフツーの兄さんに見える人が、かの浦嶋太郎を尋問した参議、小野小町の祖父にして時空探偵の元祖、閻魔大王に支える時空シャーマン、小野篁公であるということを…
正直言えば、タカムラさんのルックスは好みです。しかし、スマホやタブレットなどのガジェットも使いこなすこの人が、平然と1000年以上こんな仕事を続けていることを考えると、ちょっぴり背筋が寒くなってくるのでした。
私は無言で日暮先生に茶封筒を渡し、木田先生のぶんはキキララの封筒に入れ、そして自分もボーナスを懐に忍ばせたのでした。
「あ、そーだ!光子ちゃんこれ。ちょい早いけどクリスマス。」
タカムラさん…1000年以上前の人なのにチャラい…いいのでしょうか、クリスマス。
でも、ジルスチュアートの口紅は、もらうとやっぱりドキドキするのでした。
(続く)